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2016/12/13

景観守り、防災強化 (2016/12/13) 毎日新聞

http://mainichi.jp/articles/20161213/ddm/010/040/076000c

 防災、快適、景観の観点から電柱を無くす方策を探る「『無電柱化の日』シンポジウム」(毎日新聞社主催)が無電柱化の日の11月10日、東京都内で開かれた。行政関係者、一般市民ら約400人が参加。国内で電柱が年間約7万本増えているという現状やその打開策についての専門家の話に耳を傾けた。概要を紹介する。

街の経済価値上がる 井熊氏/新規事業は地中化で 池上氏/未来へ意識改革必要 吉田氏/阪神で減災効果確認 高田氏

 中村秀明(毎日新聞論説委員、写真左端) 無電柱化について多角的な視点から考えたい。自己紹介を兼ねて高田さんから順に。

 高田昇氏 相談・アドバイスや勉強会を開催している。電柱が有る風景と無い風景を地域の人たちに無料でシミュレート比較して見せて実感してもらったり、無電柱化の際にトランス(変圧器)をどこに置くかを相談したりしている。電柱を抜かんといかんと思った動機は、京都や大阪の歴史ある街並みを保存して生かしたかったことや、阪神大震災の復旧に携わった時に電柱8000本余が倒れて救急車、消防車が通れないのを目撃したこと。

 吉田信解氏 埼玉県本庄市は中山道最大の宿場町として栄えた交通至便な街。市内での無電柱化は旧市街地のJR本庄駅北口駅前通りと新幹線本庄早稲田駅周辺などで完成している。昨年設立された「無電柱化を推進する市区町村長の会」の会員として、安倍晋三首相に無電柱化の早期実現などを要望した。

 池上三喜子氏 市民防災研究所で防災講演を主に担当している。約20年前に訪独した際に電柱の無い街並みを見て日本には(そのような街並みが)あるかなあ?と思ったが、今はある。無電柱化にはコストと日数がかかるが、近い将来「電柱」を死語にしたい。

 井熊均氏 日本総合研究所でエネルギーやスマートシティー(最先端技術で街全体の電力の有効利用を図る街)などインフラ関係を中心に担当している。日本に電柱が多いのは二つのポイントがある。欧州では19世紀に電力会社の大半が国営だったのに比べ、日本は街づくりとインフラ整備がうまくかみ合わなかったことと、戦後に電力需要が増大した時にコストの安い空中線を使ったことだ。実は日本でも1970年代に当時の建設省が「電線地中化」を言い出し、電力会社には研究会もできていたが、前進しなかった。

 中村 阪神大震災、東日本大震災や熊本地震の時も、電柱が倒れて救急車、消防車が通れなくなり、(人命救助で重要な)「72時間の壁」問題にも影響している。消火器が電柱の陰に隠れるという問題もあるが。

 池上氏 電線地中化など安心・安全の街づくりは普段の人と人のつながりがとても大事。祭りがあれば復旧・復興が早いと言われるのはそういう意味。

 中村 魅力ある街づくりとの関連では? 吉田さん。

 吉田氏 山車10基が出る本庄まつりは、県が無電柱化したJR本庄駅前通りで見ると壮観だ。市は隣の市道をバリアフリー化と共に無電柱化しようとしたが、電気設備を除く1キロ当たりの工費が3・5億円も掛かるので断念した。ほかにも、商店街では長い工期や地上機器の設置について地元とどう合意形成するか、経済効率優先で突っ走ってきて電柱のある風景に慣れてしまった国民の意識をいかに改革するか、などの問題がある。

 高田氏 地震国での電線地中化はどうか、という不安に関しては、阪神大震災の際の被災率を比べると、電柱は2・4%、地中化部分は0・03%だった。バリアフリーの観点からも、例えば私の家の前の生活道路は幅が5メートルあるのに、両側の電柱のために実質3・5メートルで、交通事故の原因になっている。この現実を多くの人に知ってほしい。

 井熊氏 無電柱化の経費を正確に計算し直すべきだ。無電柱化で街の経済価値が上がるからこそ、民間の新規開発地では電線が地中化されている。スマートシティーでも、地中化によるマンション価格上昇への影響は10%以下だ。事情の異なる地方では、国が日本の価値を上げるために政策資金を投入すべきだ。

 中村 コストを抑えた実例は?

 高田氏 技術大国をうたっている国が工夫をしな過ぎて情けないことになっていた。新潟県見附市では官民の協力で電線の埋設場所を浅くし、電力、通信のケーブル類を小型ボックスに同時収納している。欧州ではケーブルを管路に収めず直接埋めている所もある。

 吉田氏 金沢市は地中化できない場所で軒下配線方式を採用、神奈川県鎌倉市は変圧器を街路灯の上に設置した。茨城県つくば市は全国で初めて無電柱化を促進する条例を施行した。ただ、全体的には景観改善のインセンティブ(動機付け)が働いていない。権利関係の複雑な街中には手をつけたがらない。だからこそ法制化が必要。電柱が有ると汚い所が目立たないが、無いと目立つので、無電柱化は景観改善の第一歩だ。

 池上氏 国民に丁寧に説明し、まず大型分譲地などから無電柱化を進めればいい。地域防災計画にも「近い将来、地中化」と明文化すべきだ。

 井熊氏 金沢など各地の知恵を全国で蓄積共有することが大事。時間をかけて経済的利点を生み出していく事業手法を考え、コストを考えるべきだ。

 高田氏 今のご指摘は大事だ。オリンピック・パラリンピックを前にした今は時間をかけて投資を回収できるようになってきているのでチャンスだ。私たちが不動産、経済関係者と実証実験したら、無電柱化で街の経済価値は7%高くなった。電柱新設は認めず、既存の電柱を早く安く抜くという法律の制定で、時代は大きく変わる。地方は具体的にどの地域から着手するのかという計画をしっかり立てて実行していく。国は技術開発をし、地方を支援する、というように役割分担すればいい。
「美しい日本をアピール」

 シンポ前日に発足した超党派「無電柱化法案」早期成立促進議員連盟の共同代表、遠藤利明・衆院議員(自民)は「皆さんの力も得て、安心安全で美しい国日本を外国からのお客様にアピールできるようにしたい」と述べた。同連盟の宮内秀樹・衆院議員(自民)も駆け付けた。

 小宮山泰子・衆院議員(民進)は「無電柱化は多くの人が望んでいる。無電柱化で各地域が発展することを祈念したい」、河野義博・参院議員(公明)は「皆さんと心を一つにして無電柱化を進めたい」などとあいさつした。国会出席中の大野泰正・国土交通政務官も「国交省は、国民の理解を得ながら関係者と協力し低コスト手法の開発に取り組んでいく」とのあいさつ文を寄せた。

 武田芳明・毎日新聞社専務取締役は主催者あいさつで、「毎日新聞は2週間前に『知恵絞って進める時だ』という社説を載せた。日本で無電柱化が最も進んでいる東京23区でも7%だが、パリやロンドンは100%を達成している。今年は外国人観光客が約2400万人と見込まれるが、日本の美しい風景を楽しみに来た観光客が電柱、電線を見てがっかりしたとの話も聞く。阪神大震災、東日本大震災で次々電柱が倒壊して人命救助やインフラ整備が遅れた。この二つをとっても、無電柱化を絶対に推進すべきだ。このシンポジウムは無電柱化を推進する契機になるのでは」と述べた。
基調講演「公共財としての景観」 取り戻そう豊かな心

 景観とは、ただ眺めるだけのものではなく、絶えざる対話を通じて自己を確認するものだ。電柱の問題点三つのうち、安全性・快適性と道路の防災性能については分かりやすいが、景観については必ずしも国民の理解が進んでいないと聞く。日本文化の伝統は人間と自然を一体のものとしてとらえること。富士山は自然遺産ではなく文化遺産として世界遺産になった。地質学的には平凡だが、信仰の対象で、芸術の源泉になってきたからだ。日本人は、人工的につくるものも自然と調和させ、自然と一体になって美を追究してきた。平安時代の「作庭記」に、いい庭を作ろうとすれば自然に委ねるのがいいということが書かれている。例えば岩手県平泉町の世界遺産、毛越寺・浄土庭園などは自然との境界が分からない。

 一方、欧米では古来、人間は自然を超越すると考えられてきた。フランスのベルサイユ宮殿などは、自然界に存在しない直線と円でできている。

 日本に電柱が林立している訳は、西欧化に伴い政治経済中心の合理・効率主義がはびこった▽グローバル化▽IT革命でスピードに流されて倫理観などが薄れたことなどから、日本人が本来もっていた右脳=感情と、左脳=理性のバランスを失ったこと。2004年の文化財保護法一部改正で、西洋から入った「文化的景観」の概念が導入された。地域の生活、生業、風土で形成された景観地で、国民の生活や生業の理解に不可欠なものを指す。ここで「景観は公共財である」との認識が生まれた。同年にできた景観法は、良好な景観の形成は保全だけでなく創出を含む、としている。いずれも伝統的自然観の法的表現だ。無電柱化による景観向上の効果は三つある。美しい景観がもたらす地元の誇り、観光を通じた経済的な効果、環境面の効果だ。島根県の石見銀山、埼玉県川越市、福島県下郷町の大内宿などにその実例が見られる。無電柱化実現のためには、根拠法の制定だけでなく学校、家庭、職場での教育や市民運動も求められる。成果の評価付けで地域間競争を促してもよい。東日本大震災、原発事故以降、心の豊かさを大事にする人が増えているので、大きな社会運動に発展する可能性もある。

 日本人本来の自然観、感性を取り戻す「無電柱化タウン」こそ、将来にわたって「この豊かさはあの時にできた」という意味で、20年の東京オリンピック・パラリンピックのレガシー(遺産)になる。
無電柱化推進法が成立

 無電柱化推進法は12月9日成立した。電線の地中埋設を進める計画作成を国に義務付け、地方自治体を含めた取り組みを促す議員立法。

 ■ことば
無電柱化の日

 11月10日。三つの1は電柱で、0は「ゼロにする」との意。2014年に一般社団法人無電柱化民間プロジェクト実行委員会(代表理事=絹谷幸二・東京芸術大学名誉教授)が制定した。
主催

 毎日新聞社
後援

 国土交通省関東地方整備局、無電柱化を推進する市区町村長の会、NPO電線のない街づくり支援ネットワーク

 ■人物略歴
井熊均(いくま・ひとし)氏

 日本総合研究所常務執行役員。専門は産業政策、環境エネルギー、ベンチャービジネス論。早稲田大学大学院非常勤講師も務める。

 ■人物略歴
池上三喜子(いけがみ・みきこ)氏

 公益財団法人市民防災研究所理事・特別研究員。公益財団法人東京連合防火協会評議員、防災会議委員(東京都、港区、昭島市、国立市)、震災復興検討会議委員(東京都)なども務める。

 ■人物略歴
吉田信解(よしだ・しんげ)氏

 埼玉県本庄市長。本庄市議を経て、2005年本庄市長に37歳で初当選。現在3期目。無電柱化を推進する市区町村長の会幹事。

 ■人物略歴
高田昇(たかだ・すすむ)氏

 NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事長。都市計画家、立命館大学政策科学部客員教授、COM計画研究所代表。

 ■人物略歴
近藤誠一(こんどう・せいいち)氏

 1972年外務省入省。ユネスコ日本政府代表部特命全権大使、駐デンマーク特命全権大使など歴任。2013年7月まで文化庁長官。東京大学特任教授、東京芸術大学客員教授。

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